日本南アルプス 甲斐駒ヶ岳

小島鳥水『現在登山全集』「北岳 甲斐駒 赤石」 
昭和36年 創元新社刊(一部加筆)
 
 日本南アルブスは、赤石山系をいう、赤石山系の大体の走向は、関東山系の西に、ほとんど直角をなして、所属の高山大岳は富士川の西方、天竜川の東方に列座して、その中間からは、大井川がうまれている。古来東海道の旅客を警戒させた三嶮河(富士、大井、天竜)が、大体においてこの山系から発源するのを見ても、その高山探谷に富めることが思われる、この山系は、遠江から甲斐信濃へ、南から北へと進行している、これを白峰、赤石、甲斐駒の三主脈にわかれる。
 もっとも白峰山脈の北部には、釜無伊那両山脈をもふくんで、信州諏訪湖辺で断絶しているが、両方とも低卑で、格別いうはどのものは無い、いわゆるアルプス的風光を作っているのは、白峰・赤石の両大山脈で、白峰山脈の北部に、甲斐駒山脈を結びつけることは無論である。
 まず甲斐駒山脈からいうと、甲斐の台ガ原(白州町)より出発するとして、尾白川を左にみて、右の尾根を登れば日向山(約て六六〇メートル突)雁ガ原、となり、駒岩(南方の支峰に鞍掛山がある約一、九〇〇メートル突)をへて、烏帽子岳(約二、六〇〇メートル突)に達する、この付近から峰は三岐して、一は鋸岳に向かい、一は駒ガ岳に連なり、一は上記の諸山となっている、鋸岳は西北方に突出して、山頂鋸歯状の稜角をなしている。(最高点約二、七〇〇メートル突)信州方面より最もよく望見出来る、岩石は既記の諸峰の花崗岩であるのとちがって古生層に属しているが、鋸岳はむしろ、釜無山脈中に属すべきものであろう、山脈は南行してふたたび花崗岩の駒ガ岳(信州では木曽駒ガ岳と区別するため、東駒ガ岳と呼んでいる)となり、甲斐駒山脈の最高点二、九六六に達して、その最高点は奥の院と称せられている、(これより低下する南西の一支峰は、赤石山脈仙丈岳に連なっている)主脈は南東の方向に走って、朝予(あさよ)岳(別名朝日岳、二、七九九メートル突)につらなり、地質は古生層となる、山頂は数峰に分岐している、それから早川尾根の頭(二、〇六三メートル突)広河原峠、フクロ沢の頭、赤薙の預等をへて、高峻なる登りとなって、天狗山(別名ゴーロ沢頭または高嶺二、七七九メートル突)となり、鳳風山に達してまた花崗岩となる。
 鳳凰山頂(約二、七七〇メートル突)には、オペリスク状の花崗岩塊が二柱、抱擁して尖立し、頭部が、孖(ふたご)のようにならんでいる、地蔵仏とよばれて日本南アルプス中、最も特色のある岩石で、甲府平原から分明に仰がれる、峰は東南に向かい、賽の河原をへて、地蔵岳(二、八四一メートル突)に達し、薬師岳観音岳となり、砂払となって、野呂川渓谷の東を廻っている。