愛染明王(あいぜんみょうおう)

愛染明王(あいぜんみょうおう)

 

悪魔降伏のために、武器を持って立っている武の明王。また、愛欲のけがれに染まる人間苦を解脱させる明王でもある

 この明王、もとはインドにおいて、愛をつかさどっていた神でしたが、のちに仏教の真言密教の神となった。梵語のラーガリフージャの訳といわれています。

 さて、その容貌ですが、外面は荒々しい怒りの形相ものすごく、内面は愛情ひとすじの誠心が主体となっています。つまり、怒れば鬼神も気絶し、笑えば赤子も笑うという両面を備えている不思議な明王です。

 全身これ赤色で、三面六臂(六手)、頭に獅子頭の冠をのせ、怒った姿は怒髪天をつく、のたとえ

の通りです。それに蓮花の弓前ヽ弔肌八宝鈴ヽおよび五鈷を左右三双の手に握り、光炎のなかにすわり、その下に宝瓶(ほうびょう)とそれをとりまく諸種の宝形を描いています。

 その財宝は所有欲を、弓、矢、杵(しょ)は武力を現わし、それらによって災厄を消滅して安息が得られることを現わしています。そして、蓮華は解脱のしるしです。性欲、権勢欲、物欲のあきらめ、また満足という人間の本能にこたえる尊像という意味で、その強烈な表現は非常に人間的であり、欲求不満に苦しみつづけた中世の深刻な人問苦を端的に示しています。

 一体、仏さまといえば、円清、愛敬、柔和の相好ときまっているのに、この明王はなんと恐ろしい姿であろうと思われますが、そこは一忌魔、悪心降伏の明王というからには、これくらいの見幕をみせなければ、効能がないでしょう。

 天台宗では、この明王をまつる法、つまり「愛染明王法」を、六秘法の第四に数え、また、真言宗でも、寺ごとにこれを祀って、大小災害消除とあがめています。

 この動乱の世において、『国際迎合』あたりが、この明王さまをかかげたら平和を招来し、もっと効旱があるというものです。

 それに傑作なことには、この明王さま、内職として「美顔術」の大家となっています。光明立法真言の「御釈迦さまでも気がつくめエ」というものです。

 さてこの明王さま、平安、鎌倉、室町各時代を通じ、多数描かれました。密教の息災、敬愛、得福、修法の本尊においては、また当然といえます。

 今もそれらの名作が伝わっています。国宝級のものとしては、京都市醍醐寺仁和寺東京国立博物館のものか有名です。

毎月二十六日がこの明王の縁日で、縁は異なものというが、染め物業者は藍染と同音なので尊敬しています。

また、大阪は天王寺区夕陽丘町に愛染堂があり、本堂にこの「愛染明王」を祀っています。愛敬の神ともいわれ、特に花柳界、芸界などの人に信仰されるという大モテの神でもあります。